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「如何にもその心づもりです。」
「では、私に仕えるという事ですね。」
「はい。今後も姫君にお仕えいたします。」
「では、今の事。心得置いて下さい。次にハンベエさんについての処置ですが、貴方の意見は採用できません。」
「・・・・・・。」
モルフィネスは無言でエレナの言葉を待った。今日のエレナは今までとは別人のように自分の意思を強く押し出していると感じていた。
「理由は二つです。先ずハンベエさんに関しては今まで言葉に出来ないほどの手助けをいただいて来ました。その一方貴族等はこの私に濡れ衣を着せて殺そうとしたのです。本来なれば、私の手で誅してしかるべき者達です。それを僅かな瑕瑾を責めて大恩有るハンベエさんを私が処分等してみなさい。他の私を支えてくれた人達の心も冷えるでしょう。愚かな事だと思います。これが理由の一つ。それから、こちらの方がずっと大きな理由ですが。ハンベエさんは私の家来ではありません。私を助けてくれたのは友誼によるもので、友達としてなのです。家来なら兎も角友人が友誼によって為した行為を咎め立てなど何人が出来ますか。今回の事は全てモルフィネスさんの心得違いです。今後も私の下で政務を執られるなら、よくよく胸に留めて置いて下さい。今回は罰しようとは思いませんが。」
エレナはモルフィネスに向けてそう言い放つと、次にハンベエに目を向け、
「私の判断に何か異論は有りますか。」
と些か喧嘩腰な響きの物言いをした。ハンベエは黙って首を横に振った。想定していたのとは全く異なる判断をエレナが行ったのには多少の戸惑いを覚えたが、その決然たる態度にまあ良いかと思っていた。(随分と勇ましくなったものだ。背中の蝙蝠の痣が呪いでないと解ってから元気溌剌だな。ちょっとモルフィネスを弁護してやりたい気もするが、王女の口振りには強い決意を感じる。水を差すのは止そう。)
とハンベエにはエレナの剣幕が可笑しくもあり、頼もしくも感じられた。
「では、ハンベエさん。この件はこれでお終いです。イザベラさんが相談事が有るそうで、部屋でお待ちですよ。」
エレナはハンベエにそちらへ向かうよう促した。
(何かすっかり王者っぽいの振る舞いをするなあ。と言うか、もうゴロデリア王国を統べざるを得ない自分の運命を受け容れたのだなあ。元々聡明な人間だ。いよいよ、俺は不要になったようだ。)
何とも肩の荷が降りた気分でハンベエは足取り軽く部屋を出た。
「モルフィネスさん、今後貴方にはラシャレー宰相の衣鉢を継いで宰相の役を務めていただきます。これはハンベエさんの意向でもあるでしょうし、私も貴方が相応しいと思っています。宜しいですね。」
二人切りになってから、エレナはモルフィネスにそう語り掛けた。
「これは、先程はきついお叱りを受けたものですから、そんな言葉を頂こうとは。」
「不服ですか?」
「いえ、王国の為身命を捧げてその大任に当たりたいと存じます。」
「では、お願いします。貴方が私心の無い方だとは私も存じておりますから。それでは、既にハンベエさんからお聞きだと思いますが、ボルマンスクでは国外退去する兄から王位継承して我が王国を統治する事を託されました。色々心遣いを頂き、お陰を以て兄との相克も最悪の事態を避ける形で片付きました。此方の状況はどうなっています。」
「全て順調に収束の方向に向かっています。太子軍の降伏兵も大人しく帰順しています。貴族達に率いられて兵も叛乱の気配は有りませんし、南方のカクドームに勢力を張ったキューテンモルガンも王女に恭順を示し帰順しました。今、パタンパには総勢二十三万の兵士が駐屯していますが、ドルバス将軍が全て掌握しています。